行政ビジネス

 稲継裕昭、山田賢一「行政ビジネス」(東洋経済新報社、2011年)読了。

福井県の恐竜を軸とした様々な誘客活動を例に、従来の公私が二元論的に対立している関係から、行政と私企業がパートナーシップを組み、一体となって地域の課題の解決に向かっていくべきだ、という主張である。この関係のもとでは、行政は、従来は民間企業の活動領域とされてきたビジネス的活動を行い、地域活性化のための積極的な策を打っていく。マーケティングの手法等を用いて地域の持つ資源を売り込むことを、「行政の営業」「行政ビジネス」と呼んでいる。

知事の指揮の下、福井県が積極的に恐竜を軸としてテーマパークや映画会社、旅行会社、学習塾などとコラボレーションし、「福井=恐竜」ブランドを巧みに売り込んでいることは、事例からもよく分かった。実際に福井に足を運んだこともあるので、本当にうまくやっているなというのは実感できる。

ただ、この書では豊富な事例は紹介されるものの、一般論としては「従来の行政手法やスタイルを革新し、公と民が融合した「新しい公共」を作っていく必要がある」と主張するだけで、その「新しい公共」を作っていく上で現状では何が障害となっているのか、行政の担う機能のうちどのような分野が公共・民間が融合する形に適合的なのか、といった具体的な部分が未消化に終わった感が強い。

第5章で、現行の制度の下で民間企業とのコラボレーションを進めようとすると、随意契約等の締結に係る規制があるために、仕様書に適合した応募書類の作成、予定価格内での見積書の作成など、かえって民間企業に不合理な対応を求めることに陥る可能性があることが書かれている。この点、普段の業務で、手続の遵守を求めている立場からすると、非常に生々しく、ある意味で耳が痛い話なのであるが、たとえば福井県が実際に民間とのコラボレーションをするにあたってどのような課題が生じ、どのように解決したのかが示されれば、より参考になったように思った。

PFI市場化テストなどを挙げるまでもなく、公と民が融合していく場面はこれからも増えていくと予想される。「それは民間がやることであって、行政がやるような領域ではない」といった発想をしていては、先進的な取組をしている自治体に遅れを取ることになるのだよ、という警告と受け取った。

行政ビジネス

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